売上が伸びるほどお金が足りない?増加運転資金の融資を税理士が解説
この記事を書いた人堀 真彰(税理士 / 公認会計士)

はじめに
こんにちは、税理士法人淀川パートナーズの堀です。
「大きな注文が入ったのに、仕入れのお金が足りない」——売上が伸びている会社ほど、こうした悩みを抱えます。
卸売や物販では、仕入代金を先に払い、売上の代金は後から入ってきます。売上が増えれば、先に払うお金も増えます。利益は出ているのに、現金だけが足りなくなるのはこのためです。こうした「売上が伸びたことで追加で必要になる資金」を、金融機関では増加運転資金と呼びます。
この記事では、なぜ売上が伸びるほどお金が足りなくなるのか、増加運転資金をどう計算するのか、融資を申し込むときに金融機関が何を見るのかを、資金調達に関わった会社の例も交えて解説します。読み終えるころには、自社に必要な金額の目安と、金融機関に出す資料の準備のしかたがわかるはずです。
売上が伸びるほど現金が減るのは「払ってから入るまで」が長いから
まず、卸売・物販の会社でお金がどの順番で動くかを見てみます。
| タイミング | 出ていくお金 | 入ってくるお金 |
|---|---|---|
| 発注・仕入れ | 仕入代金(前払いや短い支払サイト) | — |
| 在庫として保管 | 倉庫代・送料 | — |
| 販売(納品) | — | まだ入らない(売掛金になる) |
| 入金日 | — | 販売先からの入金(締め日から数十日後) |
仕入れてから入金されるまでの間、会社は在庫と売掛金(まだ受け取っていない売上代金)の分だけ、現金を立て替えている状態です。この立て替えの金額は、売上に比例して大きくなります。
利益が出ていても現金は足りなくなる
利益は「売上−費用」で計算しますが、現金は「いつ入って、いつ出たか」で決まります。売上が伸びている時期は、今月の仕入代金を払うときに、先月・先々月の売上はまだ入金されていません。売上が伸びるスピードが速いほど、立て替える金額が膨らみ、手元の現金が先に尽きやすくなります。
利益が出ているのに支払いができなくなる状態は「黒字倒産」と呼ばれます。業績が悪い会社だけの話ではなく、伸びている会社でも、支払と入金のタイミングの管理が行き届いていないときや、資金の手当てが遅れたときに起きやすくなります。
増加運転資金の計算方法|売掛金・在庫・買掛金の回転期間で求める
では、売上が伸びたときにいくら足りなくなるのか。金融機関で一般的に使われている計算は次のとおりです。
- 所要運転資金(事業を回すために立て替えている金額)= 売掛金・受取手形 + 在庫 − 買掛金・支払手形
- 増加運転資金 = 売上が増えた後の所要運転資金 − 今の所要運転資金
売掛金や在庫を「月商の何か月分か」(回転期間)で表すと、売上が増えたときの金額を見積もりやすくなります。
月商1,000万円が1,500万円になった場合の試算
仮の数字で計算してみます。原価率70%、売掛金の回収は2か月後、在庫は1か月分、仕入れは前払いで買掛金はなし、という会社です。
| 項目 | 月商1,000万円のとき | 月商1,500万円のとき |
|---|---|---|
| 売掛金(月商×2か月) | 2,000万円 | 3,000万円 |
| 在庫(月の仕入×1か月) | 700万円 | 1,050万円 |
| 買掛金 | 0円 | 0円 |
| 所要運転資金 | 2,700万円 | 4,050万円 |
差額の1,350万円が増加運転資金です。売上が5割増えると、利益が出ていても、これだけの現金を新たに立て替える必要があります。利益でまかなえない分が、融資で手当てすべき金額の目安になります。
回転期間が延びているときは理由を説明できるようにする
注意したいのは、所要運転資金が増える理由は売上の増加だけではない、という点です。売掛金の回収が遅れている、売れ残りの在庫が積み上がっているといった場合も、計算上は同じように増えます。
金融機関はこの違いを見ています。回転期間が前の期より延びているなら、「新しい販売先の入金サイトが長い」「大口の納品に備えて在庫を先に積んだ」など、延びた理由を説明できるようにしておくことが大切です。説明は言葉だけでなく、後で紹介する販売先別の売上や発注書と一緒に示すと、売上が増えたための資金であることが伝わりやすくなります。
前払い仕入の業種は要注意|中国輸入・OEMでは工場へのデポジットが先に出る
上の試算では買掛金を0円にしましたが、海外の工場から仕入れる会社では、さらに厳しくなります。商品ができる前に代金の一部を払う「前払い」が一般的だからです。
私が以前関わった会社は、海外の工場に製造を委託した自社ブランドの商品を、国内の小売チェーンや通販に卸していました。この会社の支払と入金の流れは次のようなものでした。
- 発注時に、工場へ製品代の30〜50%程度をデポジット(前払い金)として送金
- 出荷前に残金を送金
- 新商品の金型代や認証の費用は全額前払い
- 大手の小売向けの販売は、納品してから入金まで75日のサイト
デポジットを送ってから、製造・輸送・納品を経て入金されるまで、数か月にわたって現金が出たままになります。大口の注文が決まり、デポジットを送る時期が、もっとも資金繰りが厳しくなるタイミングでした。売上が伸びる見通しがはっきりしているのに、その仕入れを払うお金がない、という状態です。
中国などから輸入している場合は、通関のときに関税と輸入消費税も出ていきます。輸入消費税を後で差し引けるかどうかは消費税の立場によって変わるため、こちらの記事もあわせて確認してください。

増加運転資金の融資で銀行が見る資料|受注の根拠・販売先別の売上・資金繰り表
増加運転資金の融資では、金融機関は「本当に売上が増えるのか」「増えた分の資金がいつ戻ってくるのか」を確認します。先ほどの会社が融資を申し込んだとき、金融機関から求められたのは次の資料と質問でした。
- 中長期の事業計画:売上の根拠と、販売先別の売上を明確にしたもの
- 決算期までの資金繰り表
- 受注状況がわかる資料:販売先から受け取った発注書など
- 仕入れは受注ごとに行っているのか、まとめて行っているのか
ポイントは、「売上が伸びます」という説明ではなく、それを裏付ける書類を求められたことです。発注書があれば、売上の増加を見込みではなく客観的な根拠として示せます。
試算表が入金ベースだと増加運転資金を説明できない
この会社では、もう一つ課題がありました。日々の記帳が入金があった時点で売上を計上する形になっていて、売掛金が月々の試算表に正しく載っていなかったのです。
これでは、試算表を見ても「いま売掛金がいくらあり、在庫がいくらあるか」がわかりません。増加運転資金は売掛金と在庫から計算するので、その数字がずれていると、必要額の根拠そのものが示せません。
本来は、納品した時点で売上と売掛金を計上し、在庫も月ごとに把握する形が望ましいところです。いきなり記帳のやり方をすべて変えるのが難しければ、まずは直近数か月分について、月末時点の売掛金と在庫を拾い直すところから始めても、必要額の根拠はかなり示しやすくなります。
支払と入金の予定は週単位・取引先別に並べる
資金繰り表も、月単位の合計だけでは足りませんでした。デポジットと残金の送金、大口の販売先からの入金は、それぞれ日付が決まっています。そこで大口の取引先ごとに「デポジット」「残金」「入金」の列を作り、週単位で並べた予定表を作成しました。
| 週 | 取引先Aのデポジット | 取引先Aの残金 | 取引先Aからの入金 | 通常の仕入 | 週の支払合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 6月1週 | ○○万円 | — | — | ○○万円 | ○○万円 |
| 6月2週 | — | — | — | ○○万円 | ○○万円 |
| 7月1週 | — | ○○万円 | — | ○○万円 | ○○万円 |
| 9月4週 | — | — | ○○万円 | ○○万円 | ○○万円 |
こうして並べると、どの週に現金がいちばん少なくなるかが見え、借りる金額と時期を逆算できます。金融機関にとっても、資金がいつ出て、いつ戻るかが一目でわかる資料になります。
資金繰り表をまだ作ったことがない方は、まずこちらの記事の基本の形から始めてください。そこに取引先別の支払と入金を足していきます。

公庫・銀行・当座貸越の使い分け|ずっと必要な資金と一時的な山を分ける
増加運転資金の借り先は、主に次のような選択肢があります。
| 借り先 | 特徴 |
|---|---|
| 日本政策金融公庫 | 政府系の金融機関。国民生活事業の一般貸付は、運転資金の融資限度額4,800万円、返済期間5年以内(特に必要な場合7年以内)、うち据置期間1年以内 |
| 商工中金 | 中小企業専門の金融機関 |
| 信用金庫・地方銀行 | 地域の取引銀行。日々の入出金の取引と合わせて関係を作る |
公庫の一般貸付の条件は日本政策金融公庫の公式ページで確認できます(2026年10月時点)。
「どこから借りるか」とは別に、「どういう形で借りるか」も選びます。銀行の融資では、主に次の3つの形があります。
- 証書貸付:金銭消費貸借契約書を交わして借り、毎月分割で返していく形。返済期間が数年にわたる融資の多くはこの形です
- 手形貸付:銀行あてに手形を差し入れて借りる形。1年以内など短い期間で、期日にまとめて返すことが多い借り方です
- 当座貸越:あらかじめ決めた枠(極度額)の範囲で、必要なときに引き出し、返せばまた使える借り方。枠は金融機関の審査で決まります
1か所にまとめず、資金の性格で組み合わせる
先ほどの会社では、公庫・商工中金・信用金庫からの借入と、取引銀行の当座貸越を組み合わせて資金を手当てしていました。
考え方の目安は、売上が伸びた後もずっと必要になる分(常に立て替えている売掛金と在庫)は返済期間のある融資で、大口注文のたびに一時的に膨らむ分は当座貸越のような枠で、というものです。ずっと必要な資金を短い借入でまかなうと、返済が入金より先に来て、また資金が足りなくなります。
ただし、どの組み合わせが合うかは会社の状況で変わります。取引している金融機関の数や、すでにある借入の返済額によっても答えは違うので、迷ったらご相談ください。
すでに公庫から借りていて、返済の途中で次の融資を考えている方は、こちらの記事で申し込むタイミングと審査のポイントを解説しています。

融資はスタート|受注が増えるたびに資金繰り表を更新する
増加運転資金の融資を受けても、それで終わりではありません。売上が伸び続ける限り、次の大口注文が入るたびに、また同じ計算が必要になります。
先ほどの会社では、資金繰り表を「計画」「実績」「計画と実績の差」の3つに分けて管理していました。予定どおりに入金されたか、デポジットの額が計画より増えていないかを毎月確かめ、ずれが出たら次の調達の時期を前倒しで考える。融資を受けた後に計画と実績を比べ続けることは、次の融資を受けやすくするための大切な準備の一つです。金融機関にとっても、計画どおりに進んでいる会社のほうが、次の相談に応じやすくなります。
そのためには、毎月の試算表が正しく、早く出てくることが前提です。売掛金と在庫が実態どおりに載った試算表があって初めて、増加運転資金の計算も、計画と実績の比較もできます。
「いま目の前の融資を何とかしたい」という段階の方は、融資の申込みだけのご相談も承っています。資金繰り表の作成から申込みまでの支援の内容は、こちらをご覧ください。

そのうえで、融資の後も月次の試算表の作成から資金繰り表の管理、次の融資の相談までを継続して任せたい方には、税務顧問としてサポートしています。サービスの内容はこちらをご覧ください。

まとめ
- 卸売・物販は仕入代金を先に払い、売上代金は後で入るため、売上が伸びるほど立て替える現金が増える
- 所要運転資金=売掛金・受取手形+在庫−買掛金・支払手形。売上が増えた後との差額が増加運転資金
- 回転期間が延びているときは、売上増によるものか、回収遅れや売れ残りによるものかを説明できるようにする
- 海外の工場への前払い(デポジット)がある業種は、大口注文が決まった時点がいちばん資金が足りなくなる
- 金融機関は、販売先別の売上・発注書などの受注の根拠・資金繰り表で、増加の裏付けを確認する
- ずっと必要な資金は返済期間のある融資、一時的な山は当座貸越のような枠で、と性格で分けて組み合わせる
- 融資の後も、試算表と資金繰り表で計画と実績を比べ続けることが、次の調達の準備になる
※本記事は2026年10月時点の情報です。個別の税務判断はご相談ください。
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