カフェの法人化はいつ?タイミングと営業許可・在庫の引き継ぎを税理士が解説
この記事を書いた人堀 真彰(税理士 / 公認会計士)

カフェの売上が伸びてくると、「法人にするのはいつがいいのか」「法人にしたら営業許可や在庫はどうなるのか」が気になり始めます。カフェの法人化では、税金の損得だけでなく、営業許可・在庫・設備・店舗の契約を個人から会社へ引き継ぐ段取りが大切です。
この記事では、法人化を考えるタイミングと引き継ぎの方法を、個人事業主の確定申告と法人の決算を担当する税理士・公認会計士が解説します。読み終えるころには、法人化に向けた準備の全体像と順番が分かります。
カフェの法人化を考えるタイミング
法人化の判断は、売上の大きさではなく、経費を引いた後の利益が毎年安定して出るかどうかで考えます。会社にすると、利益がなくてもかかる住民税の均等割や社会保険料、決算の費用などの負担が増えます。それを差し引いても手元に残るお金が増えるかを試算して判断するため、「売上がいくらを超えたら法人化」という一律の目安はありません。
カフェでは、次のような変化が法人化を考えるきっかけになります。
- 利益が毎年安定して出るようになった
- アルバイトを増やす、正社員を雇う予定がある
- 2店舗目の出店や設備の入れ替えで、まとまった借入を考えている
- ケータリングや豆の卸売りで、取引先から法人としての取引を求められている
法人化で変わる税金と社会保険
法人化すると、利益は「会社に残す分」と「社長の役員報酬」に分かれます。比べるのは、会社と社長個人の税金に社会保険料を加えた合計です。
- 役員報酬:原則として毎月同じ額にし、額を決められるのは原則として事業年度の開始から3か月以内(1期目は設立の日から3か月以内)です
- 社会保険:会社は社長1人でも健康保険と厚生年金に入る義務があります。アルバイトも勤務時間などの条件を満たすと加入の対象です
- 雇用契約:雇い主が会社に変わるため、従業員との雇用契約を会社と結び直します
- 赤字の繰越:個人事業主のときの赤字は会社に引き継げません
アルバイトの多いカフェは、社会保険料の負担がどれだけ増えるかを先に見積もっておくことが大切です。加入の対象になる人には、手取りへの影響も含めて早めに説明しておきます。
法人と個人事業主の税金の違いや、退職金・小規模企業共済の扱いは、次の記事で詳しく説明しています。

役員報酬の額の決め方は、こちらの記事をご覧ください。

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飲食店営業許可の引き継ぎ
飲食店営業許可は営業する人(個人事業主)に出ているため、別の営業者である会社はそのまま使えません。以前は、個人の廃業届と会社での新規の許可申請が必要でした。
2023年(令和5年)12月13日からは、営業をまるごと譲る場合、保健所への届出で許可を引き継げる仕組みができました(食品衛生法第56条、厚生労働省の案内)。届出には、譲渡契約書など譲渡を証明する書類が必要です。
法人成りでこの仕組みを使えるかを含め、手続きは保健所によって異なるため、会社を設立する前に管轄の保健所へ相談しておくことが大切です。設立日、資産を移す日、届出の日がずれると、営業できない期間が生じるおそれがあります。
在庫・厨房設備・内装の引き継ぎ
個人と会社は別の人として扱われるため、在庫や設備は会社に売るなどの形で移します。名義を変えるだけでは済まず、個人と会社の両方で税金の扱いが生じます。
食材・コーヒー豆などの在庫
法人化の日に残っている在庫は会社に売ったものとして扱い、個人の最後の確定申告で事業の売上に含めます。法人化の前日の営業後に在庫を数え、品目・数量・仕入値を一覧にして残します。
国税庁の通達では、販売用の商品を通常の販売価格のおおむね70%未満で譲ると「著しく低い価額」での譲渡にあたり、通常の販売価格との差額(70%相当額との差額でもよいとされています)を個人の収入に加えることになります(所得税基本通達40-2・40-3)。食材のようにそのままでは販売していない在庫の金額の決め方は一律ではないため、税理士に確認してください。
厨房設備・内装の引き継ぎ方
コーヒーマシンなどの厨房設備や内装は、会社に売るか、個人のまま会社に貸すかを選びます。
- 会社に売る:個人では譲渡所得(資産を売った利益)になり、最大50万円の特別控除があります。帳簿上の残りの金額(未償却残高)を目安に決める方法があります。ただし、会社に売る金額が実際の価値(時価)の2分の1未満だと、時価で売ったものとして扱われるため、焙煎機など価値が残りやすい設備は注意が必要です
- 個人のまま貸す:会社から受け取る賃料を個人の所得として申告します
個人が消費税の課税事業者であれば、在庫や設備を売った分にも消費税がかかります。代金をすぐに払えない場合は、会社の未払金にして後から払う方法もあります。何を、いくらで、いつ会社に移すかを譲渡契約書に書いておくと、税金と営業許可の両方の裏付けになります。
個人のときの在庫の数え方や減価償却の考え方は、次の記事で説明しています。

店舗の賃貸借契約・借入・決済の切り替え
個人の名前で結んでいる契約も、会社に切り替えます。
- 店舗の賃貸借契約:借りる権利を譲るには大家さんの承諾が必要です(民法第612条)。名義変更の費用、保証金を預け直す必要があるか、内装や原状回復の義務を会社が引き継げるかも確認します
- 借入:個人で借りた融資は、自動では会社に移りません。引き継ぐかどうかは金融機関の判断なので、法人化の前に相談します
- 口座・決済・デリバリーアプリ:会社名義での契約には審査があり、時間がかかることがあります。間に合わないとキャッシュレス決済が使えない期間が生じるおそれがあるため、切り替えの手続きと期間を各社に事前に確認します
個人と会社の売上・支払いが混ざらないよう、切り替え日を決めておくことが大切です。法人化の前日までの売上は、入金が後になっても個人の売上です。会社の売上が個人の口座に入った場合は、会社との間で精算します。
消費税の免税とインボイスの手続き
新しく設立した会社は、資本金が1,000万円未満であれば、原則として1期目と2期目は消費税の免税事業者です。会社は個人とは別の事業者なので、個人のときの売上は判定に使いません。ただし、次の場合は納税が必要です(国税庁No.6501)。
| 会社の状況 | 1期目・2期目の消費税 |
|---|---|
| インボイスに登録しない | 原則として免税 |
| インボイスに登録する | 売上にかかわらず納める |
| 1期目前半6か月の売上と給与がどちらも1,000万円超 | 2期目は納める |
なお、1期目が7か月以下の場合は、3つ目の判定の対象になりません。
お店の客層にもよりますが、カフェのお客さまは一般の消費者が中心で、インボイスを求められる場面はそれほど多くありません。企業の会議利用やケータリング、豆の卸売りが多いお店では登録を求められることがあります。登録するかどうかで免税の期間をつくれるかが変わるため、法人化の時期とあわせて決めます。
個人でインボイスの登録をしている場合は、次の手続きが必要です。
- 個人の登録番号は会社に引き継げません。会社として新しく登録を申請します
- 個人は、消費税の「事業廃止届出書」と所得税の廃業届を提出します
- 会社は、設立した事業年度の末日までに「課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を書いた登録申請書を出せば、設立日にさかのぼって登録を受けられます(インボイスQ&A 問11)
登録番号が変わるため、レジのレシートやデリバリーアプリなどに登録している番号と事業者名も、会社のものに切り替えます。
カフェの法人化の準備の順番
ここまでの内容を準備の順番に並べると、次のようになります。お店の状況によって前後するため、目安としてご覧ください。
- 利益の見込みをもとに、法人化するかどうかと時期を試算する
- 大家さん・借入先・保健所に事前に相談する
- 会社を設立する(定款の事業目的には、豆の販売など将来行う事業も入れておく)
- 法人口座を開き、決済やデリバリーアプリの切り替えを申し込む
- 会社に移す設備と金額を決め、譲渡契約書を作る(在庫は前日に数えた金額で引き継ぐ形にしておく)
- 前日に在庫を数え、切り替え日から会社として営業する
- 保健所への届出、インボイスの登録申請、個人の廃業の届出をする
法人化した年は、個人の最後の確定申告と会社の1期目の決算が重なります。前年の所得をもとに個人の所得税の予定納税(7月と11月の前払い)の通知が届くこともあり、廃業で所得が明らかに減る見込みなら、期限までの申請で減額を受けられる場合があります。法人化は手続きをして終わりではなく、設立後も毎年の決算や役員報酬の見直しが続くため、その後の数年を見込んで計画を立てておくことが大切です。
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- カフェの法人化は、売上ではなく、利益が毎年安定して出るかどうかで判断します
- 飲食店営業許可は、2023年12月13日から、営業をまるごと譲る場合は届出で引き継げる仕組みがあります。手続きは事前に保健所へ確認します
- 在庫は会社に売ったものとして個人の売上に含めます。通常の販売価格のおおむね70%未満の金額には注意が必要です
- 店舗の賃貸借契約、借入、決済は、切り替え日を決めて会社に移します
- 資本金1,000万円未満で新しく設立した会社は、原則として1期目・2期目は消費税が免税ですが、インボイスに登録すると免税になりません
※本記事は2026年10月時点の情報です。個別の税務判断はご相談ください。
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