遊漁船業の確定申告|船の耐用年数と経費の落とし穴を税理士が解説

はじめに
こんにちは、税理士法人淀川パートナーズの堀です。
高い船を買ったのだから、今年は経費がたくさん出て、税金は安くなるはずだ。遊漁船業を始めた方が、最初につまずきやすいのがこの感覚です。
1,700万円の船を買っても、その代金が買った年の経費になるわけではありません。船のような高額な設備は、買った年に全額を経費にすることができず、何年かに分けて少しずつ経費にしていくルールになっています。これを減価償却(げんかしょうきゃく)といいます。
そして遊漁船業の場合、この「何年に分けるか」の判定が、他の業種よりもずっと厄介です。船は、同じ「船」でも4年から15年まで区分が分かれ、さらに中古で買うと2年まで縮むことがあるからです。ここを間違えると、申告書の数字が根本から狂います。
この記事では、遊漁船業を営む個人事業主の方に向けて、船の減価償却・経費になるもの・青色申告・船にかかる税金を、実際にご支援したケースの数字を使いながら整理します。以前公開した融資の記事の続きにあたる内容です。
なお、本記事の事例はご本人が特定されないよう、金額を実額から丸めています。金額どうしの比率は実際のものを保っています。
遊漁船業の確定申告が他の商売と違う4つの特徴
まず、遊漁船業という商売の「かたち」を確認します。ここを押さえておくと、あとの話がつながります。
- 資産のほとんどが船1点。飲食店の内装や美容室の機器のように分散せず、1つの買い物が帳簿の大部分を占めます
- 売上が天候に左右される。荒天が続けば出航できず、月の稼働が数日という月もあります
- お客様のほとんどが個人の釣り客。乗船料を現金で受け取る場面が多く、売上の記録の付け方が問われます
- 安全に関する法定の備品・保険が必須。遊漁船業は登録制で、続けるかぎり毎年コストがかかります
この4つのうち、申告の結果を最も大きく動かすのが1番目です。船をどう処理するかで、その年の利益が数百万円単位で変わります。

船は買った年の経費にならない|減価償却と耐用年数
10万円以上の物を買って、それを何年も使うのであれば、その代金は「固定資産」として帳簿に載せ、使える年数(耐用年数)で割って毎年少しずつ経費にする——これが減価償却です。
では、船の耐用年数は何年か。ここが遊漁船業の最初の関門です。
船の法定耐用年数は4年〜15年
耐用年数は、国が「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で定めています。船舶の区分を抜き出すと、次のようになっています。
| 区分 | 耐用年数 |
|---|---|
| 鋼船(船舶法の登録を受けるもの)のうち漁船・総トン数500トン未満 | 9年 |
| 木船のうち漁船 | 6年 |
| 軽合金船 | 9年 |
| 強化プラスチック船(FRP船) | 7年 |
| 上記以外の船(船舶法の登録対象外の小型船)のうちモーターボート・とう載漁船 | 4年 |
| 上記以外の船(同上)のうちその他のもの | 5年 |
※出典:減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一(2026年8月時点)。上表は船舶の区分の一部を抜粋したものです。
同じ「船」でも、4年から15年まで区分が分かれます(上表に載せていない区分を含めると最長15年です)。何で決まるかというと、船体の材質(鋼・木・軽合金・FRP)と、船舶法の登録を受ける船かどうかの2つです。
遊漁船として使われる小型船は、総トン数20トン未満で船舶法の登録対象外にあたるケースが多く、その場合は表のいちばん下の2つ、つまり4年または5年の区分で判定することになります。「漁船だから9年」と反射的に決めてしまうと、区分そのものを間違えます。
中古船は耐用年数が短くなる(簡便法)
ここからが本題です。中古で買った資産は、上の表の年数をそのまま使うのではなく、もっと短い年数で償却できます。すでに何年か使われている以上、残りの使える期間は短いはずだからです。
計算方法は2つあり、あと何年使えるかを見積もる方法(見積法)と、見積もりが難しい場合に使う簡易な計算(簡便法)があります。実務では簡便法を使うことがほとんどです。
- 法定耐用年数をすべて経過している中古:法定耐用年数 × 20%
- 一部だけ経過している中古:(法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%
- 計算結果に1年未満の端数が出たら切り捨て。2年に満たないときは2年とする
遊漁船に当てはめてみます。法定耐用年数が4年の区分だとして、すでに4年以上使われた船を買った場合は「4年 × 20% = 0.8年」。5年の区分でも「5年 × 20% = 1年」。どちらも2年に満たないので、耐用年数は2年になります。
実際、私たちがご支援したケースでも、購入されたのが中古船だったため、約1,700万円の船を2年で償却する形になりました。定額法(毎年同じ額を経費にする方法)で計算すると、年あたり約850万円が経費になります。買った年は使い始めた月からの月割になるので、まるまる850万円ではありません。
中古の船を買った場合に、もうひとつ知っておいていただきたいことがあります。中古資産の耐用年数は、その資産を事業に使い始めた年の申告で決めるものです。あとから「やっぱり2年にします」と遡って変えることはできません。船を買った年の申告は、慎重に組んでおく必要があります。

中古の事業用車両の扱いについては、軽貨物ドライバーの記事でも詳しく解説しています。

遊漁船業の経費の一覧|燃料・保険・係留費・上架・餌代
次に、日々の経費です。遊漁船業には、他の業種の「経費一覧」には出てこない項目が並びます。
| 分類 | 具体例 |
|---|---|
| 船を動かす費用 | 燃料代、エンジンオイル、係留・保管料(マリーナ・漁港の使用料) |
| 船を保つ費用 | 上架(陸に揚げる)費用、船底塗装、エンジン整備、修繕費 |
| 安全・法令関係 | 船舶保険、利用者への賠償責任保険、救命胴衣・救命いかだ等の法定備品の更新や検査、船舶検査手数料 |
| お客様に出すもの | 餌代、氷、貸出用の釣り具の消耗分、飲み物、清掃用品 |
| 集客・事務 | 予約サイトの手数料、ホームページ費用、通信費、記帳や申告に関する費用 |
| その他 | 送迎用の車の費用、駐車場代、遊漁船業の登録更新にかかる費用 |
保険については補足があります。遊漁船業は都道府県知事の登録が必要な事業で、利用者の生命・身体に損害が生じた場合の賠償に備える措置をとっていることが、登録の要件とされています(遊漁船業の適正化に関する法律 第4条第1項第6号)。登録は5年ごとに更新が必要です(同法第3条第2項)。任意で入る保険ではなく、事業を続けるかぎり必ずかかるコストだと考えてください。
10万円を超える機器の扱い|魚探・レーダー・無線機
魚群探知機、レーダー、GPSプロッター、無線機、発電機。遊漁船業では、単体で10万円を超える機器を買う場面が何度もあります。これらは買った年に全額を経費にできるとはかぎりません。金額によって扱いが分かれます。
- 10万円未満:買った年の経費にできます
- 10万円以上20万円未満:3年で均等に経費にする方法(一括償却資産)が選べます
- 一定額未満:青色申告をしている中小事業者は、買った年に全額を経費にできる特例があります(少額減価償却資産の特例。年間合計300万円まで)
- それを超えるもの:耐用年数に応じて減価償却します
3つ目の特例には注意点があります。この上限額は2026年(令和8年)4月1日以後に取得したものから30万円未満 → 40万円未満に引き上げられました。同じ2026年中でも、1月から3月までに買ったものは30万円未満が基準です。買った時期で線が引かれるので、レシートの日付を確認してください。

開業したら青色申告|赤字を3年繰り越せる
遊漁船業を始めた方には、青色申告を強くおすすめします。理由は特別控除だけではありません。
ここまで見てきたとおり、船を買った年とその翌年は、大きな減価償却費が立ちます。一方で、開業したばかりの時期はお客様がまだついていません。その結果、最初の1〜2年は帳簿上が赤字になりやすいのです。
青色申告をしていると、この赤字(純損失)を翌年以後3年間にわたって繰り越し、将来の黒字と相殺できます(所得税法第70条)。開業当初の赤字を、事業が軌道に乗ってからの黒字にぶつけられるということです。
ただし、繰り越すには「赤字が出た年に申告し、その後も続けて毎年申告している」ことが条件です。「今年は赤字だから申告しなくていい」と1年でも飛ばすと、繰越が使えなくなります。赤字の年こそ申告してください。
青色申告に必要な主な手続きは次のとおりです。
- 開業届:税務署へ提出します。2026年1月1日以後に開業した方から、提出期限が「開業から1か月以内」ではなく「その年分の確定申告期限まで」に変わりました(所得税法第229条の改正)。まだ「1か月以内」と書かれた解説も多いのでご注意ください
- 青色申告承認申請書:原則としてその年の3月15日まで。その年の1月16日以後に開業した場合は、開業から2か月以内(所得税法第144条)
- 複式簿記で記帳し、e-Taxで申告するか電子帳簿保存をすると、青色申告特別控除65万円が使えます
- ご家族が受付・送迎・予約管理などを手伝っている場合は、青色事業専従者給与の届出も検討します
注意していただきたいのは、開業届の期限がゆるくなっても、青色申告承認申請書の期限は変わっていないことです。この期限を過ぎると、その年は青色申告ができません。船を買う年に青色になっていないと、上に書いた繰越も特例も使えないことになります。開業の手続きは後回しにしないでください。

船には毎年かかる償却資産税|申告は1月31日まで
見落とされやすいのがこれです。船は、固定資産税(償却資産)の課税対象です。
「固定資産税は土地と建物にかかるもの」と思われがちですが、事業に使う機械・器具・備品なども対象で、これを償却資産と呼びます。地方税法では、自動車税・軽自動車税がかかる車両は償却資産から除かれていますが、船舶は除かれていません。車には自動車税があり、船にはこれがかかる、という関係です。
- 賦課期日は毎年1月1日。その時点で持っている償却資産が対象です
- 1月31日までに、資産がある市町村へ申告します(地方税法第383条)。所得税の確定申告とは別の手続きです
- 標準税率は1.4%(同法第350条)
- 免税点は150万円。同じ市町村内にある償却資産の課税標準の合計が150万円未満なら課税されません(同法第351条)
船が1,700万円クラスであれば、免税点は当然に超えます。ここで重要なのは、償却資産税の評価額の計算は、所得税の減価償却とは別の仕組みで行われるという点です。所得税の帳簿の上で2年で償却し終えたとしても、船を持っているかぎり申告の義務はなくなりません。
個人事業税は業種区分の確認が必要
もうひとつ、都道府県の税である個人事業税があります。所得から事業主控除290万円を差し引いた残りに課税される税金で、これも確定申告とは別に納付書が届きます。
ただし個人事業税は、地方税法に列挙された業種(法定業種)を営む場合にかかる税金です。第一種事業(税率5%)に「運送業」や「遊覧所業」が、第二種事業(税率4%)に「水産業」が挙げられていますが、「遊漁船業」という名前で挙げられている区分はありません。
つまり遊漁船業がどの区分に当たるかは、条文からは一義的に決まりません。実際の取扱いは都道府県の判断になります。お住まいの都道府県税事務所に確認するか、税理士にご相談ください。ここを取り違えると、納税額そのものが変わってきます。

船を買った年の消費税とインボイスの判断
最後に消費税です。開業して間もない個人事業主は、原則として開業から2年ほどは消費税を納める義務がありません(免税事業者)。2年前の売上を基準に判定する仕組みのため、そもそも基準となる売上がないからです。
ここで論点になるのが、船を買った年です。1,700万円の船を買えば、支払った代金には消費税が含まれています。あえて課税事業者になることを選べば、この消費税の還付を受けられる可能性があります。
ただし、いったん課税事業者を選んで高額な設備を買うと、原則として3年間は免税事業者に戻れません。還付を受けた翌年以降は、売上にかかる消費税を納め続けることになります。「今年戻ってくる金額」と「その後3年間に納める金額」を並べて比べないと、得か損かは決まりません。届出にも期限があります。
インボイス登録については、判断の軸が違います。インボイスが必要になるのは、お客様が事業者で、支払った金額を自分の経費として消費税の計算に使う場合です。遊漁船業のお客様は個人の釣り客が中心で、その方々はインボイスを必要としません。
ですので原則としては、お客様が個人中心であれば、急いで登録する必要性は高くありません。ただし、法人が接待や社員旅行で貸切利用する割合が大きい場合は、話が変わってきます。ご自身のお客様の構成によって答えが逆になるところなので、判断に迷ったらご相談ください。
まとめ
- 船の代金は、買った年の経費にはならない。耐用年数で割って毎年少しずつ経費にする
- 船の耐用年数は4年から15年まで幅がある。材質と船舶法の登録の有無で区分が決まるので、「漁船だから9年」と決めつけない
- 中古で買った船は、耐用年数が2年まで短くなることがある
- 耐用年数は使い始めた年の申告で決まり、あとから変えられない。船を買った年の申告は慎重に
- 青色申告なら赤字を3年繰り越せる。ただし赤字の年も含めて毎年続けて申告することが条件
- 船には毎年、償却資産税がかかる。1月31日までに市町村へ申告が必要。個人事業税の区分は都道府県への確認を
遊漁船業は、船という1点の高額な設備が申告のすべてを左右する事業です。とくに耐用年数の判定や青色申告の届出は、あとから遡って直すことができません。手を打てるタイミングが限られているので、迷ったら早めにご相談ください。
※本記事は2026年8月時点の情報です。個別の税務判断はご相談ください。
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