遊漁船業の創業融資|2,000万円が通った資金計画を税理士が解説

はじめに
こんにちは、税理士法人淀川パートナーズの堀です。
「創業でいきなり2,000万円なんて、実績のない個人に貸してもらえるのだろうか」——高額な設備が必要な事業で独立を考えている方から、よくいただくご相談です。
先日、遊漁船業(釣り客を船で漁場まで案内する事業)を始められる方の資金調達をお手伝いしました。事業の中心はもちろん船です。船は1隻で1,000万円を超えることもある、非常に高額な設備です。
結果として、日本政策金融公庫から約2,000万円が、担保も連帯保証人もなしで実行されました。この記事では、そのときに私たちが実際に作った資金計画の中身と、申請額から減額された部分をどう受け止めたかを、できるだけ具体的にお伝えします。
船に限らず、トラック・重機・工作機械・キッチンカーなど、「高額な設備を1つ買うところから始まる事業」で独立を考えている方に、そのまま応用していただける内容です。
なお、本記事の事例はご本人が特定されないよう、金額を実額から丸め、地域・時期・船の仕様などは伏せています。金額どうしの比率は実際のものを保っています。
ご相談時の状況|異業種から遊漁船業へ
ご相談者は、船の世界とはまったく関係のない職種から転身された方でした。いわゆる異業種からの独立です。
ここだけ聞くと「経験がないのに、いきなり高額な船で開業して大丈夫なのか」と思われるかもしれません。実際、金融機関も同じ見方をします。しかしこの方は、いきなり船を買って開業したわけではありませんでした。
- 船釣りそのものは15年以上の経験があり、その間に多くの同業者のサービスを研究していた
- 前職を辞めたあと、一本釣りの漁師として1年半、実際に海に出て働いた
- その後、既存の遊漁船で船長見習いとして経験を積んだ
- 1級小型船舶操縦士、特定操縦免許、遊漁船業務主任者などの資格を開業前に取得済み
異業種からの転身であっても、「実務経験と資格を先に積んでから開業する」という順番を踏んでいたことが、計画書全体の説得力を支えました。
経営者の略歴は、創業計画書のなかでも数字と並ぶ重要な項目です。勤務先の名前を並べるだけでなく、「その事業を実際に回せる根拠」として書けるかどうかで、読み手の受け取り方が変わります。
遊漁船業の開業に必要な資金は約2,600万円
まず、開業に必要な資金を洗い出しました。内訳はおおよそ次のとおりです。
| 区分 | 金額 | 内容 |
|---|---|---|
| 設備資金 | 約1,800万円 | 船(約1,700万円)、救命いかだ、衛星EPIRB(遭難信号を発信する法定備品)など |
| その他初期費用 | 約100万円 | 貸出用の釣り道具、撮影機材など |
| 運転資金 | 約700万円 | 燃料代、メンテナンス代、保険料などの当面の支払い |
| 合計 | 約2,600万円 |
ご覧のとおり、設備資金が全体の約7割を占めます。飲食店や美容室のように内装・機器・保証金がバランスよく並ぶのではなく、1点の買い物が資金計画のほとんどを決めてしまうのが、この種の事業の特徴です。
なお、救命いかだや衛星EPIRBのような安全備品も、すべて見積書を取って積み上げました。「船代だけ書いて、あとはざっくり」では、金額の根拠が示せないからです。
これに対して、ご用意できる自己資金は約350万円。必要資金全体の約13%でした。
「自己資金は3割必要」は公庫の要件ではない
創業融資について調べると「自己資金は3割は必要」という説明をよく見かけます。実際、この方も「13%しかないので難しいのでは」と気にされていました。
しかし、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」の制度案内ページを実際に読むと、「自己資金」という言葉は一度も出てきません。公表されている条件は次のとおりです。
- ご利用いただける方:新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方
- 融資限度額:7,200万円
- 返済期間:設備資金20年以内(うち据置期間5年以内)/運転資金10年以内(うち据置期間5年以内)
※出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」(2026年8月時点)
とはいえ、自己資金が多いほうが有利であること自体は、実務上そのとおりです。自己資金は「どれだけ準備してきたか」を示す材料になります。ただしそれは公表された要件ではなく、あくまで審査の一要素です。「3割ないから無理だ」と最初からあきらめる必要はありません。
ただし、自己資金が少ない場合は、その分だけ事業計画の中身で説明する負担が重くなります。どちらのケースに当てはまるか判断が難しいときは、一度ご相談ください。

自己資金2割で創業融資が実行されたバーのケースも、計画の中身とあわせて紹介しています。

創業融資の計画書に何を書き込んだか
日本政策金融公庫の創業計画書には、「事業の見通し」を書く欄があります。ただしこの欄は、「創業当初」と「1年後又は軌道に乗った後」の2列だけです。
月商がいくら、経費がいくら、利益がいくら。それを2列書いて終わりです。2,000万円規模の設備投資を10年以上かけて返していけるかどうかを、この2列で示すのは無理があります。
そこで私たちは、所定の様式とは別に「別紙」として3年分の月次の損益計画と資金繰り表を作成し、あわせて提出しました。その中で意識したのが、次の3点です。
売上は「定員の半分」で計算する
売上の計算では、船の定員に対して半分しかお客様が乗らない前提で組みました。満席で計算すれば、当然ながら数字はきれいに並びます。しかし創業初期から満席が続く前提の計画は、読み手からは「願望」に見えます。
半分で計算しても返済が回る。そう示せることのほうが、数字の大きさよりもはるかに重要だと考えました。
出航できない月も月次計画に入れる
船の事業には、他業種にはない明確な弱点があります。天候が悪ければ出航できないことです。
この海域では、1〜3月は荒れる日が続き、月に5〜7日程度しか出られません。通常月の稼働が月15日ですから、冬場は稼働が半分以下まで落ちるということです。
この点を隠さず、1〜3月は月6日の稼働として月次計画に反映しました。結果として、1年目の1〜3月は損益がわずかに赤字になる計画になっています。
赤字の月がある計画をあえて出すのは勇気が要ります。しかし、季節変動は隠しても必ず質問されます。先に自分から開示し、そのうえで「それでも資金は回る」と示すほうが、後から指摘されるよりずっと良い、というのが私たちの考えです。
事業主の生活費は資金繰り表に入れる
個人事業の場合、事業主本人の生活費は経費になりません。そのため損益計算書には出てきません。ところが、現実にはお金は毎月出ていきます。
損益計算書だけを見て「黒字だから大丈夫」と判断すると、生活費の分だけ現金が足りなくなります。そこで資金繰り表には、毎月のご家族の生活費も支出として計上しました。
創業融資の相談で、ここが抜けている計画書は少なくありません。生活費まで引いたうえで現金が残るかどうかが、実際に事業を続けられるかどうかの分かれ目です。

結果:約2,000万円が担保なしで実行
公庫への申請額は約2,300万円(必要資金約2,600万円から自己資金約350万円を差し引いた額)でした。これに対して実行されたのは約2,000万円です。必要額に対してどう着地したかを整理すると、次のようになります。
| 区分 | 必要額 | 調達できた額 | 差 |
|---|---|---|---|
| 設備資金 | 約1,800万円 | 約1,800万円(公庫融資) | ±0 |
| 運転資金・その他 | 約800万円 | 約550万円(自己資金+公庫融資) | ▲約250万円 |
| 合計 | 約2,600万円 | 約2,350万円 | ▲約250万円 |
融資の主な条件は次のとおりでした。
- 返済期間:設備資金は約14年、運転資金は約8年
- 元金の返済開始は、契約から約1年後(据置期間。利息の支払いは翌月から始まります)
- 担保なし
- 連帯保証人なし
1年間、元金の返済が猶予されるというのは、創業期にとって非常に大きい条件です。船を買ってすぐは、まだお客様がついていません。売上が立ち上がるまでの助走期間を、返済の条件そのもので確保できた形になります。
減額されたのは運転資金
表を見ていただくとわかるとおり、設備資金はほぼ満額が認められた一方で、減額されたのは運転資金でした。
当初は運転資金を9か月分見込んでいましたが、この減額により6か月分程度まで縮んだ計算になります。手元資金がもつ期間が、そのまま3か月短くなったということです。
なぜこうなったのか、金融機関から理由の説明があるわけではありません。ただ、私たちはこう受け止めています。設備資金は見積書があるので金額の根拠が動きません。一方で運転資金は「これくらいかかる見込み」という性質のものなので、どうしても見方が入る余地があります。

高額な設備で創業する方が気をつけること
今回の案件を踏まえて、船に限らず高額な設備から事業を始める方に、お伝えしておきたいことを2つ挙げます。
季節変動のある事業の見せ方
天候に左右される事業、繁忙期と閑散期の差が大きい事業は少なくありません。年間の平均だけを示すと、閑散期に資金が足りるのかという疑問が必ず残ります。月次で示し、悪い月も込みで回ることを見せるほうが結果的に伝わります。
既存の借入は隠さない
今回のご相談者には、開業前から住宅ローンがありました。これも創業計画書にそのまま記載しています。
個人の借入状況は信用情報で確認されるため、書かなくても把握されます。記載しないことで得られるものは何もなく、失うものだけがあります。

なお、融資が実行されて船を買ったあとは、その代金をどう経費にしていくかという別の問題が始まります。船の耐用年数の判定と、遊漁船業ならではの経費については別の記事で詳しく整理しています。

まとめ
- 遊漁船業を始める方の資金調達を支援し、約2,000万円が担保・連帯保証人なしで実行されました(自己資金は必要資金の約13%)
- 異業種からの転身でも、実務経験と資格を先に積んでから開業する順番を踏んでいたことが計画の説得力につながりました
- 公庫の様式は「創業当初」「軌道に乗った後」の2列だけなので、別紙として3年分の月次損益と資金繰り表を作成しました
- 売上は定員の半分の稼働で計算し、天候で出られない冬場も隠さず月次に反映しました
- 事業主の生活費は経費になりませんが、現金は出ていきます。資金繰り表には必ず入れてください
- 今回は設備資金はほぼ満額、運転資金が大きく減額され、手元資金がもつ期間は9か月分から6か月分程度に縮みました
- 「自己資金3割」は公庫の公表要件ではありません。ただし少ない場合は計画で説明する負担が重くなります
※本記事は2026年8月時点の情報です。個別の税務判断はご相談ください。融資の審査結果は事業内容・時期・個別の状況によって異なり、同じ結果をお約束するものではありません。
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