フリーランス・個人事業主の節税|順番を間違えると手取りは減る

はじめに
こんにちは、税理士法人淀川パートナーズの堀です。
「フリーランス 節税」で調べると、たくさんの方法が紹介されています。青色申告、経費、共済、法人化——どれも有効な方法です。ただ、数が多いぶん、自分はどれから手をつければよいのか迷ってしまう、というお話をよく伺います。
節税は、やる内容だけでなく、やる順番によっても手元に残るお金が変わってきます。
たとえば「経費を使えば税金が減る」と考えて、年末にまとまった買い物をする。税金は確かに減りますが、手元のお金はそれ以上に減ります。あとから資金繰りのご相談をいただくことも、少なくありません。
この記事では、個人事業主・フリーランスの節税を「手元のお金がどう動くか」で3つに分類し、どこから検討するとよいかを整理します。あわせて、2026年に変わる2つの上限(少額減価償却資産の特例とiDeCoの拠出限度額)についても解説します。どちらも施行が近い改正です。
節税には順番がある|「現金が減らない節税」から手をつける
節税と呼ばれるものは、手元のお金の動き方で3つに分けられます。まずこの整理をしておくと、あとの話が一本の線でつながります。
| 分類 | 手元のお金 | 代表例 | 優先度 |
|---|---|---|---|
| ①現金が減らない節税 | 減らない(手取りがそのまま増える) | 青色申告特別控除、家事按分の見直し、所得控除の取り漏れ | 最優先 |
| ②現金は出るが自分に貯まる節税 | 出ていくが、自分の積立になる | 小規模企業共済、iDeCo、経営セーフティ共済 | 次 |
| ③現金が出ていく節税 | 出ていって戻らない | 設備投資、備品の購入 | 最後 |
節税は①→②→③の順に検討するのが原則です。
①現金が減らない節税|まっさきにやるべきもの
青色申告特別控除は、65万円を所得から差し引いても1円もお金は出ていきません。家事按分も同じで、すでに払っている家賃や電気代のうち、事業に使っている分を正しく計上するだけです。社会保険料控除などの取り漏れも同様です。
つまり①は、やれば手取りがそのまま増えます。ここを取り切らないまま③に進むのは、順番が逆です。
②現金は出るが自分に貯まる節税
小規模企業共済やiDeCoは、掛金を払うのでお金は出ていきます。ただし、そのお金は他人に払うのではなく自分の積立になります。①の次に検討すべきものです。
注意点は「今すぐ使えるお金ではなくなる」ことです。原則として途中で自由に引き出せません。だからこそ、いくら掛けるかは所得の大きさだけでは決められません。
③現金が出ていく節税|最後に検討する
経費を増やせば所得は減り、税金も減ります。ただし減るのは税率の分だけです。
たとえば課税される所得金額が330万円超695万円以下の方は、所得税の税率が20%です。住民税およそ10%とあわせると、およそ30%の税率がかかっていることになります。この方が100万円の経費を使うと——
- 減る税金:約30万円
- 出ていくお金:100万円
- 差し引き:約70万円のマイナス
※所得税の税率は課税所得の金額によって5%〜45%に分かれます。上の計算は、経費を引いたあとも同じ税率の区分に収まる場合の概算です(復興特別所得税は考慮していません)。
「税金を減らすためだけに使うお金」は、必ず手取りを減らします。
もともと事業に必要だったものを買うのであれば、それは良い投資です。③を最後に検討するというのは、「買うな」という意味ではなく、①と②を取り切ってから考えましょうという意味です。
【2026年】節税に関わる2つの上限が変わります
2026年は、個人事業主の節税に直結する数字が2つ変わります。どちらも施行が近く、まだ古い数字のまま書かれている解説記事が多いところです。
| 制度 | これまで | これから | 時期 |
|---|---|---|---|
| 少額減価償却資産の特例 | 取得価額30万円未満 | 取得価額40万円未満 | 2026年4月から |
| iDeCoの拠出限度額 (自営業者・フリーランス) | 月68,000円 | 月75,000円 | 2026年12月1日施行予定 |
| iDeCoの加入可能年齢 | 原則65歳未満 | 一定の要件のもと70歳未満まで | 2026年12月1日施行予定 |
※出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱」/厚生労働省「2025年の制度改正」
少額減価償却資産の特例が40万円未満に上がるということは、これまで4年に分けて償却していたパソコンや機材が、買った年に全額経費になるということです。
それぞれの内容は、このあとの該当するセクションで詳しく解説します。
まず青色申告特別控除を取り切る
①の筆頭が青色申告特別控除です。お金を1円も使わずに、所得から最大65万円を差し引けます。先ほどの「所得税20%+住民税10%」の方であれば、およそ20万円の差になります(概算)。
65万円・55万円・10万円は何で分かれるか
| 控除額 | 要件 |
|---|---|
| 65万円 | 55万円の要件に加えて、次のいずれかを満たすこと ①確定申告書・貸借対照表・損益計算書等を期限までにe-Taxで提出する ②仕訳帳と総勘定元帳を「優良な電子帳簿」の要件を満たして電子保存し、届出書を提出している |
| 55万円 | ①事業所得または不動産所得(事業的規模)があること ②正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)で記帳していること ③貸借対照表・損益計算書等を添付し、確定申告期限(3月15日)までに提出すること ④現金主義による所得計算の特例を選択していないこと |
| 10万円 | 上記に当てはまらない青色申告者 |
※出典:国税庁 タックスアンサー No.2072「青色申告特別控除」
55万円と65万円の差は、実務上は「e-Taxで出すかどうか」だけということがほとんどです。
65万円を取り逃がす典型パターン
- 複式簿記で記帳しているのに、紙で提出している……55万円止まりになります。会計ソフトで作った申告書を印刷して郵送している方は、ここで10万円分を失っています
- 期限に1日でも遅れた……55万円・65万円の要件を満たさなくなり、10万円まで下がります
- そもそも青色申告承認申請書を出していない……青色申告自体ができません
とくに3つ目は、確定申告の直前に気づいてもどうにもなりません。青色申告承認申請書の提出期限は、原則としてその年の3月15日です。新しく事業を始めた方は、開業から2か月以内が期限になります。
見落とされがちな「赤字の3年繰越」
青色申告特別控除ばかりが注目されますが、実務でありがたいのは純損失の繰越控除のほうです。その年の赤字を翌年以後3年間にわたって繰り越し、黒字になった年の所得から差し引けます。
開業初年度は設備投資などで赤字になりやすいものです。その赤字を捨てずに翌年以降へ持ち越せるだけでも、青色申告にする価値があります。

経費を正しく計上する|家事按分は「割合」より「区分できるか」
経費は「増やす」ものではなく「取り漏らさない」ものです。すでに事業のために払っているお金を正しく計上する——これは①に該当します。

家事按分に「何割まで」という決まりはない
自宅兼事務所の家賃や電気代、携帯電話代のように、事業と生活の両方に使うものを家事関連費(かじかんれんひ)といいます。よくいただくのが「何割までなら経費にしていいですか」というご質問ですが、法律に「何割まで」という決まりはありません。
国税庁は、必要経費になる範囲をこう書いています。
取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます
国税庁 タックスアンサー No.2210「必要経費の知識」
基準は「割合の大きさ」ではなく、「区分の根拠を説明できるか」です。
家賃なら事業に使っている床面積の割合、電気代なら使用時間、通信費なら業務で使った実績——このように、その割合を出した根拠を示せることが大事です。逆に、根拠がないまま「だいたい8割」としているほうが、割合の大小にかかわらず問題になります。
なお、妥当な水準は事業の形態によって大きく変わるため、一律の目安をお伝えするのは難しいところです。判断に迷う場合はご相談ください。

30万円未満から40万円未満へ|少額減価償却資産の特例
10万円以上のものを買った場合、通常はその年に全額を経費にできず、耐用年数にわたって減価償却(毎年少しずつ経費にしていくこと)をします。パソコンなら4年、軽自動車なら4年、普通自動車なら6年といった具合です。
これに対して青色申告者には、少額減価償却資産の特例があります。取得価額が一定額未満のものは、買った年に全額を必要経費にできる制度です。
そしてこの基準額が、2026年4月から30万円未満→40万円未満に引き上げられます(令和8年度税制改正)。
- 対象は青色申告者(白色申告では使えません)
- 1年間に取得した資産の合計300万円が上限
- 適用期限も3年延長されています
法人向けの制度に見えますが、税制改正の大綱に「所得税についても同様とする」と明記されており、個人事業主も対象です。
なお、この改正はまだ反映されていない解説も多く、「30万円未満」と書かれた情報が残っています。お調べになるときは、それが改正前の情報か改正後の情報か、日付とあわせてご確認ください。

所得控除を積む|小規模企業共済・iDeCo・経営セーフティ共済
②に該当するのがこの3つです。「どれに入ればいいですか」とよく聞かれますが、性格がまったく違います。順に整理します。
小規模企業共済|掛金が全額、所得控除になる
個人事業主のための退職金制度です。中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しています。
- 掛金は月1,000円〜70,000円(500円単位)。加入後に増額・減額もできます
- 支払った掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得から差し引けます
- 加入資格は、常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業は5人以下)の個人事業主など
上限の月7万円まで掛けると年84万円になります。先ほどと同じ「所得税20%+住民税10%」の方であれば、年間およそ25万円の差です(概算)。
iDeCo|2026年12月から上限が月75,000円へ
iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金も、小規模企業共済と同じ小規模企業共済等掛金控除の対象で、全額が所得から差し引けます。
自営業者・フリーランス(国民年金の第1号被保険者)の拠出限度額は現在月68,000円ですが、2026年12月1日施行予定で月75,000円に引き上げられます。あわせて、一定の要件のもとで70歳未満まで加入できるようになる予定です。
この枠は、国民年金基金の掛金や国民年金の付加保険料と共通です。付加保険料を払っている方は、その分だけiDeCoに回せる金額が減ります。両方に入っている方は、合計額でご確認ください。
経営セーフティ共済|所得控除ではなく「必要経費」
名前が似ていますが、性格が違います。取引先が倒産したときの連鎖倒産に備える制度で、掛金は所得控除ではなく事業所得の必要経費になります。
- 掛金は月5,000円〜200,000円(5,000円刻み)
- 掛金総額の積立限度額は800万円
- 12か月未満で解約すると掛け捨て、12か月以上で掛金総額の8割以上、40か月以上で全額が戻ります
ここで見落とされやすいのが、令和6年10月1日以降に解約して入り直した場合のルールです。
解約の日から2年を経過する日までの間に支払った掛金は、必要経費(法人の場合は損金)に算入できません。「利益が出た年に入って、必要になったら解約して、また入り直す」という使い方は、以前のようには通用しなくなっています。改正前の情報を載せたままの解説記事もあるので、ご注意ください。
3つの使い分け
| 制度 | 税金の扱い | 掛金の範囲 | 資金の拘束 |
|---|---|---|---|
| 小規模企業共済 | 所得控除 (小規模企業共済等掛金控除) | 月1,000〜70,000円 | 原則、廃業・退任するまで |
| iDeCo | 所得控除 (小規模企業共済等掛金控除) | 月68,000円まで (2026年12月から75,000円予定) | 原則60歳まで引き出せない |
| 経営セーフティ共済 | 事業所得の必要経費 | 月5,000〜200,000円 (累計800万円まで) | 40か月未満の解約は元本割れ |
資金が拘束される強さは、iDeCo > 小規模企業共済 > 経営セーフティ共済の順です。
いちばんよくある失敗は、利益が出た年に節税額だけを見て上限まで掛けてしまい、翌年の資金繰りに困るというものです。とくにiDeCoは60歳まで引き出せないため、事業資金として当てにすることはできません。
いくら掛けるべきかは、所得の大きさだけでなく、当面必要な運転資金とセットで決めます。ここは一人ひとり答えが変わるところなので、シミュレーションのうえで判断されることをおすすめします。


家族に給与を払う|青色事業専従者給与
生計を一にする家族に支払った給与は、原則として必要経費になりません。ただし青色申告者は、届出をしたうえで青色事業専従者給与として必要経費にできます。
- 年齢が15歳以上であること
- その事業に専ら従事していること
- 事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していること
- 届出書に記載した金額の範囲内であること
金額の設定には注意が必要です。仕事の内容や従事した時間に見合わない金額は、否認される可能性があります。また、専従者給与を出すと、その家族について配偶者控除・扶養控除は使えなくなります。
「いくらまでなら大丈夫か」は、事業規模や仕事の内容によって変わります。金額の妥当性が問われやすい論点なので、設定の前にご相談いただくのが安全です。

消費税の負担を下げる|2割特例と3割特例
所得税ばかりに目が行きがちですが、インボイス制度をきっかけに課税事業者になった方にとっては、消費税のほうが負担が大きいことも少なくありません。
- 2割特例……納付する消費税額を売上税額の2割にできる特例。個人事業者は令和8年分(2026年分)まで
- 3割特例……令和8年度税制改正で新設。個人事業者限定で、令和9年分・令和10年分について納付税額を売上税額の3割にできます。基準期間(その年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下であることが要件です
2割特例が終わったあと、いきなり原則課税に戻るわけではなく、3割特例という受け皿が用意されています。
ただし、簡易課税を選ぶかどうかの判断とセットになり、届出の期限があります。どれが有利かは売上と仕入れの構成によって変わるため、期限前に一度計算しておくことをおすすめします。

法人化を検討するタイミング
「利益がいくらになったら法人化すべきか」は、よくいただくご質問です。600万円、800万円といった数字を挙げる記事もありますが、原則として、分岐点は事業ごとに変わります。次のような要素が絡むためです。
- 所得の水準と、その安定性(一時的な好調か、続く見込みか)
- 消費税の免税期間をどう使うか
- 社会保険への加入義務が生じること
- 役員報酬は原則として期中に変えられないこと
- 設立費用と、赤字でも発生する法人住民税の均等割
法人化は「税金が安くなるか」だけでは決められません。
とくに社会保険料の負担は見落とされがちで、所得税・住民税が下がってもトータルの負担が増えるケースがあります。数字を並べて比較しないと判断できないところなので、迷ったらご相談ください。

やってはいけない「節税」
最後に、ご相談のなかでよく見かける「やらないほうがよかった節税」を3つ挙げておきます。
税金を減らすためだけにお金を使う
冒頭の計算のとおり、100万円使って減る税金は税率の分だけです。「使えば減る」は事実ですが、「使ったほうが得」ではありません。
判断の基準はシンプルで、その支出が事業にとって必要かどうかです。必要なものを買うタイミングを調整するのは有効な方法ですが、必要でないものを買うのは節税ではなく、ただの支出です。
事業と関係のない支出を経費にする
家族との食事を会議費にする、私的な旅行を出張にする——こうした処理は、税務調査で問題になります。
修正が必要になれば、本来の税金に加えて過少申告加算税や延滞税がかかります。仮装・隠蔽があったと判断されれば重加算税の対象にもなり、結果として払う金額は増えます。
節税と、経費の水増しはまったく別のものです。

その年だけの節税に飛びつく
「今年は利益が出たから」と大きな支出をすると、翌年以降の経費を先に使ってしまうことになります。減価償却資産をまとめて経費化した翌年は、その分だけ経費が減り、税負担が重くなります。
節税は単年ではなく、数年単位で考えるものです。売上が伸びている時期であればなおさら、来年・再来年の利益まで見たうえで判断する必要があります。
まとめ
- 節税は①現金が減らないもの → ②自分に貯まるもの → ③現金が出ていくものの順に検討する
- 最優先は青色申告特別控除65万円。55万円との差は「e-Taxで出すかどうか」だけということが多い
- 青色申告には赤字を3年繰り越せるという、控除額以上に大きなメリットがある
- 家事按分の基準は割合の大きさではなく、区分の根拠を説明できるか
- 少額減価償却資産の特例は2026年4月から40万円未満に引き上げ(青色申告者・年間300万円まで)
- iDeCoの拠出限度額は2026年12月1日施行予定で月75,000円に引き上げ(国民年金基金・付加保険料と共通枠)
- 経営セーフティ共済は、令和6年10月以降に解約して入り直すと2年間は掛金を経費にできない
- 共済・iDeCoの掛金は、所得だけでなく当面必要な運転資金とセットで決める
- 税金を減らすためだけに使うお金は、必ず手取りを減らす
※本記事は2026年8月時点の情報です。個別の税務判断はご相談ください。
【申告・税務でお困りの方へ】
「自分のケース、どうすればいいかわからない」という方は、お気軽にご相談ください。
とくに共済やiDeCoの掛金をいくらに設定するか、専従者給与をいくらにするか、法人化すべきかどうかは、調べても答えが出ない種類の問題です。数字を入れて比較しなければ判断できません。
税理士法人淀川パートナーズは大阪市淀川区の税理士事務所です。
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