副業の法人化にメリットがない理由を税理士が解説します

「副業がある程度の収入になってきたので、法人化した方がお得なのでは」というご相談は、実はよくいただきます。実際に、複数のご相談で「マイクロ法人」というキーワードが出てきました。副業の収入が伸びてきた方の間で、法人化への関心が高まっているようです。
結論から言うと、法人化が明らかに有利になるケースは、実務上そう多くありません。この記事では、実際にご相談いただいた事例(個人が特定できないよう内容は一部変更しています)をもとに、法人化を判断する際の着眼点を整理します。なお、個別の状況によって結論は変わりますので、あくまで判断の枠組みとしてお読みください。
「副業を法人化したい」というご相談
会社員として働きながら副業をされている方から、「どれくらいの利益になったら法人化した方がいいですか」というご相談をいただくことがあります。
法人化にはさまざまなメリットがあると言われますが、実際にお話をお伺いし、数字を整理していくと、「今のタイミングでは見送った方がよい」という結論になることが少なくありません。
ここでは、実際にご相談いただいた内容をもとに、判断のポイントを順に解説します。なお、法人化そのものの一般的な注意点(決算期の決め方・役員報酬の期限・設立直後の手続きなど)は、こちらでまとめていますので、あわせてご覧ください。

所得税の節税効果は思っているほど大きくない
個人事業主として青色申告をしている場合、青色申告特別控除(最大65万円)が受けられます。一方、法人化して自分に役員報酬を支払う場合は、給与所得控除が適用されます。
法人化すると「経費計上」と「給与所得控除」の両方が使えてお得、と言われることがありますが、実際には個人事業主の青色申告特別控除と比較すると、控除額としては近い水準になることが多く、法人化によって明確に有利になるとは言い切れません。なお、この比較は、副業の所得が事業所得として青色申告できることが前提です。 副業の規模や実態によっては税務上「雑所得」として扱われ、青色申告特別控除が使えないこともあります。その場合は法人化を検討する前に、まず事業所得として認められる記帳や実態を整えることが優先です。ご自身の副業がどちらに該当するかは、規模や記帳の状況を踏まえて確認が必要です。
もう一つ、よくある誤解があります。「個人の所得税率(累進課税で最大45%、住民税とあわせると最大55%)が、法人税率(中小法人であれば実効税率でおおむね30%前後)を超えたら、法人化した方が得」という比較を耳にすることがありますが、これは正確ではありません。役員報酬は法人の経費として法人税の計算上差し引かれるため、生活費として受け取る役員報酬の部分には、そもそも法人税の低い税率は関係がありません。受け取った役員報酬には、通常の給与と同じように所得税・住民税がかかります。 結局は個人の累進税率がそのままかかることになり、法人税率の低さが意味を持つのは、利益を法人に留保して使わない部分だけです。個人の税率と法人税率を単純に比較して判断するのは、この構造を見落としています(利益を法人に残す場合の話は、後ほどお伝えする退職金の論点とも関わってきます)。
なお、個人事業主として一定規模以上の副業を行う場合は、所得税とは別に個人事業税もかかります。事業主控除(年290万円)を超える部分に、業種に応じた税率(多くの業種で5%程度)が課税される仕組みです。副業の所得規模がまだ小さいうちは事業主控除の範囲内に収まり、個人事業税が発生しないことも多いですが、所得が伸びてきた場合はこの点もあわせて考慮する必要があります。
家族を役員にして所得を分散するという話にも注意が必要
「家族を役員にして役員報酬を払えば、所得を分散できて節税になる」という話もよく耳にします。たしかに、複数人に所得を分ければ、それぞれが低い税率区分で課税され、各自が給与所得控除も使えるため、理論上は世帯全体の税負担を抑えられる面があります。
ただし、これが認められるのは、その家族が役員として実態のある業務を行っている場合に限られます。勤務実態がないのに役員報酬を支払っていると、税務調査で「不相当に高額な役員給与」として損金不算入とされるリスクがあります。 職務の内容や、法人の収益状況、他の従業員の給与とのバランスなどから、報酬額が適正かどうかが判断されます。
さらに注意したいのは、否認された場合はむしろ二重課税になるということです。法人側では経費として認められず法人税がかかる一方、受け取った家族側では給与所得として所得税・住民税がそのままかかります。節税のつもりが、かえって税負担が増えるケースもあるため、実態を伴わない形での所得分散は避けるべきです。
副業が赤字のときは法人化していると損益通算できない
副業を始めたばかりの時期は、経費がかさんで赤字になることも珍しくありません。個人事業主のままであれば、副業の赤字を本業の給与所得と損益通算でき、所得税の還付を受けられることがあります(ただしこれも副業が事業所得として扱われる場合の話で、雑所得に区分される場合は他の所得と通算できません)。
一方、法人化していると、副業の赤字は法人自身の欠損金になります。法人の欠損金は、あなた個人の給与所得とは通算できません。 将来その法人が黒字になったときに繰り越して使う(欠損金の繰越控除)ことはできますが、個人の税金がその場で戻ってくるわけではないという点は、見落とされがちなポイントです。
社会保険料は安くならずむしろ副業が会社にバレる?
会社員の方は、すでに本業の勤務先を通じて厚生年金・健康保険に加入し、保険料を支払っています。副業を法人化しても、本業側で支払っている社会保険料が安くなることはありません。もし本業そのものが自分の会社であれば、役員報酬を低く設定することで社会保険料を抑える、という選択肢もありますが、本業は他社の従業員としての立場のままで副業だけを法人化する場合、この調整はできません。さらに、副業の法人から役員報酬を支払う場合、法人側にも社会保険料の会社負担分(本人負担分とほぼ同額)というキャッシュアウトが新たに発生します。 個人事業のままであれば生じない支出です。
さらに注意したいのが、副業の法人から役員報酬を受け取ると、原則としてその法人でも社会保険への加入義務が生じ、本業と副業それぞれの報酬を合算して保険料を按分する「二以上事業所勤務」の手続きが必要になる点です。この手続きには本業の会社側の関与も伴う可能性があるため、役員報酬を出す場合は、この手続きを通じて副業の存在が本業の会社に伝わる可能性があります。
「会社に知られたくない」という理由で法人化を検討される方もいらっしゃいますが、実際に会社に伝わる主なルートは、多くの方が心配される登記簿の閲覧ではなく、この社会保険の手続きです。登記簿謄本には役員名が記載されますが、これは法務局で取得の手続きをしないと確認できない情報で、同僚や上司がわざわざ取得しに行くという状況は現実的には想定しにくいため、そちらのリスクはそれほど大きくありません(なお、個人事業のままであれば、住民税の徴収方法を普通徴収に切り替えることで、給与への天引きに副業分の住民税が反映されないようにする対応も可能です)。
役員報酬を0円にすれば社会保険の追加加入・手続きは避けられますが、その場合は給与所得控除などの恩恵も受けられなくなります。実際にいただいたご相談でも、本業の社会保険に加入されている方について、「社会保険面での法人化のメリットは大きくなく、むしろ会社に伝わるリスクがある」という結論になりました。
「設立2年は消費税免税」は今は使えないケースが多い
法人化のメリットとして「設立から2年間は消費税が免税になる」という話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。売上規模や資本金によっては今でも該当しますが、インボイス発行事業者として登録すれば、その時点で必然的に課税事業者となるため、2年間の免税は適用できなくなります。 取引先からインボイス(適格請求書)の発行を求められるビジネスモデルであれば、この点に留意が必要です。免税事業者のままだと、取引先が仕入税額控除を受けられず、取引そのものを敬遠されるケースがあるためです。
「法人化すれば2年間税金がかからない」というイメージだけで判断するのは、今は少しリスクがあります。
退職金としてのプールと役員報酬0円は両立しにくい
法人に利益を留保しておき、将来的に退職金として受け取る、という設計は税制上のメリットが大きく、法人化の魅力としてよく挙げられます。ただし、退職金の適正額は直近の役員報酬など実態を踏まえて計算されるものです。役員報酬をゼロのまま進めておいて、退職時に退職金だけをまとめて受け取る、という設計は実態が伴わず、税務調査で損金(経費)として認められないリスクがあります。
法人の維持コストと個人の確定申告も必要になること
法人には、赤字であっても発生する税金(法人住民税の均等割)、決算・申告の事務負担、税理士への報酬など、個人事業にはない固定コストが必ず発生します。均等割は本社の所在地にもよりますが、年7〜8万円程度が目安です。 税理士費用だけでも、法人の顧問・申告で年間30万円以上かかることが一般的です。
2か所以上から給与所得がある場合は、個人の確定申告も別途必要になります。 本業の給与に加えて、副業法人から役員報酬を受け取る形になるためです。この個人の確定申告についても、別途税理士費用がかかります。
副業所得がこれらのコストを上回るメリットを生むかどうかが、そもそもの判断の出発点になります。
将来的に独立・本業化を見据えている場合は例外
ここまでの内容は、あくまで「今の節税効果」を基準にした場合の話です。一方で、将来的に副業を本業として独立させる計画がある場合は、話が変わってきます。
法人は設立からの年数を重ねるほど、対外的な信用力が増していきます。実際に独立して法人を立ち上げようとしても、実績のない設立直後の法人では、法人口座の開設を断られることがあります。金融機関によっては、設立から1年以上経過していることを口座開設の条件にしている場合もあります。将来の独立を見据えているなら、早めに法人を設立しておくことで、こうした実務上のハードルを避けられる可能性があります。
個人事業のまま vs 副業を法人化の比較まとめ
| 項目 | 個人事業のまま | 副業を法人化 |
|---|---|---|
| 所得の控除 | 青色申告特別控除(最大65万円、事業所得の場合) | 給与所得控除(近い水準) |
| 赤字の扱い | 本業の給与と損益通算できる(事業所得の場合) | 法人内でしか繰り越せない |
| 社会保険料 | 変わらない | 役員報酬次第で追加手続きが発生 |
| 会社に知られるリスク | 住民税の徴収方法で調整可能 | 役員報酬を出すと社会保険経由で伝わる可能性 |
| 消費税免税 | 該当すれば適用 | インボイス対応が必要な取引では活かしにくい |
| 維持コスト | 確定申告のみ | 均等割(年7〜8万円目安)・法人の申告・個人の確定申告が別途必要(税理士費用は年30万円以上が目安) |
まとめ
副業の法人化は、多くの場合、思っているほど明確なメリットが出ないことがあります。一方で、所得水準や将来の独立計画によっては、法人化にメリットがあるケースも実際にあります。所得水準、社会保険の加入状況など、確認すべき点は一人ひとり異なるため、この記事の内容は判断材料の一つとしてお使いください。私たちは、法人化をお勧めすることが目的ではなく、お客様にとって本当に必要かどうかを一緒に整理することを大切にしています。






