パーソナルジムの開業資金|内訳と創業融資の通し方を税理士が解説
この記事を書いた人堀 真彰(税理士 / 公認会計士)

はじめに
こんにちは、税理士法人淀川パートナーズの堀です。
大手ジムやスタジオでトレーナーとして経験を積み、そろそろ自分のジムを持ちたい。そう考えたときに最初にぶつかるのが、「結局いくら用意すれば始められるのか」がどこにも書いていないという問題です。
マンションの一室で始めるパーソナルジムは、テナントを借りるより初期費用を抑えられるため、独立の第一歩として選ばれることが増えています。ただ、費用の目安を調べても金額の幅が大きく、しかもその数字がどこから来たものなのかがはっきりしません。
そしてもう一つ、ほとんど語られていない論点があります。トレーニング機材を「いくらのものを」「いつ買うか」で、その年の税金が変わるという点です。同じ100万円分の機材でも、買い方次第で経費になる年が3年先までずれることがあります。
この記事では、マンション一室型のパーソナルジムを前提に、開業資金の内訳、売上計画の立て方、機材の買い方で変わる税金、そして創業融資を通すために押さえるポイントまでを、税理士の実務目線で整理します。
パーソナルジムの開業資金|マンション一室型の内訳
初期費用の目安と5つの費用項目
マンションの一室でパーソナルジムを開業する場合、初期費用はおおむね110万円〜290万円程度が目安とされています。内訳は次のとおりです。
| 費用項目 | 内容 | 目安金額 |
|---|---|---|
| 物件取得費 | 敷金・礼金・仲介手数料・前家賃など(家賃の3〜6か月分) | 30〜90万円 |
| 内装・床補強 | ラバーマット、大型ミラー、壁紙の変更など | 10〜50万円 |
| トレーニング機材 | パワーラック、ベンチ、ダンベル・バーベル一式など | 50〜100万円 |
| 広告宣伝費 | ホームページ制作、写真撮影、SNS広告など | 10〜30万円 |
| その他備品 | 体組成計、更衣スペースの什器、タオル・消耗品など | 10〜20万円 |
| 合計 | — | 110〜290万円 |
この表は「相場」ではなく「見積もりを取るときの抜け漏れチェックリスト」として使うことをおすすめします。実際の金額は、物件の家賃、機材を新品にするか中古にするか、ホームページを外注するか自作するかで大きく変わります。
テナント型との違い
開業形態によって必要な資金は段階的に変わります。マンション一室型が選ばれるのは、この差が理由です。
- レンタルジム活用型:30〜80万円程度。機材を持たずに始められる一方、時間帯の確保が他社との競合になる
- マンション一室型:110〜290万円程度。機材と内装を自分で持つが、内装工事は最小限で済む
- テナント型(路面店・ビル):300〜800万円程度。視認性と集客力は高いが、内装工事と保証金の負担が大きい
マンション一室型の最大の利点は、内装工事がほとんど不要な点です。飲食店や美容室のように、保健所の検査に通る設備を作り込む必要がないため、その分の数百万円がまるごと不要になります。
同じ店舗型の開業でも、保健所の検査を受けなければ営業を始められない業種では、資金計画の立て方そのものが変わります。比較の材料として美容室のケースもあわせてご覧ください。

見落としやすい費用|防音・床補強・契約条件
重量物の落下音は初期費用に直結する
マンション型で最も見落とされるのが、床と音の対策です。ダンベルやバーベルを床に置く動作は、階下から見れば重量物の落下音になります。ラバーマットの敷設や床の補強は、あれば快適という話ではなく、営業を続けられるかどうかに直結する初期費用です。
この費用を最初の見積もりに入れていないと、開業後にクレームを受けてから追加で工事することになり、資金計画が崩れます。後から出てくる費用ほど、資金繰りに効きます。
「居住用」の物件では開業できない場合がある
賃貸マンションの契約書には、使用目的が「居住用」と定められていることがあります。この場合、事業として不特定の方を招き入れる利用が契約違反になる可能性があります。分譲マンションの一室であれば、管理規約で用途が制限されていることもあります。
これは税務ではなく契約と規約の問題ですので、物件を決める前に、貸主または管理組合に事業利用の可否を確認してください。契約後に判明すると、物件取得費がそのまま損失になります。
運転資金を初期費用に含めていない
開業した翌月から会員が埋まることは、まずありません。それでも家賃と広告費は毎月出ていきます。ここを見ずに機材にお金を使い切ってしまうと、集客が軌道に乗る前に資金が尽きます。
| 入れ忘れやすいもの | なぜ必要か |
|---|---|
| 床補強・防音マット | 階下への落下音対策。開業後の追加工事は資金繰りを直撃する |
| 運転資金(3〜6か月分) | 会員が集まるまでの家賃・広告費・生活費をまかなう |
| 予約システムの利用料 | 個人運営では予約管理の手間が営業時間を圧迫する |
| 損害保険料 | 指導中の事故に備える。加入を物件の条件とされることもある |
| 開業までの生活費 | 売上が立つまでの期間、生活費の出どころが必要になる |
必要な資金の全体像が見えてきたら、次に決めるのは「いくら借りるか」です。借りすぎても借りなさすぎても経営を圧迫しますので、金額の決め方はこちらで詳しく解説しています。

売上計画の作り方|創業計画書に落とし込む3ステップ
費用が固まったら、次は「いくら売れるのか」です。ここは融資審査で最も見られる部分でありながら、根拠なく数字を置いてしまう方が多い箇所でもあります。
ステップ1:売上を4つの数字に分解する
パーソナルジムの月商は、次の式に分解できます。
月商 = セッション単価 × 1日の枠数 × 稼働率 × 月の営業日数
この形にしておくと、計画書に「月商60万円を見込みます」と書くのではなく、「単価8,000円のセッションを1日5枠、稼働率60%、月22日営業で見込みます」と書けます。審査で問われるのは金額ではなく、その金額の作り方です。
| セッション単価 | 1日の枠数 | 稼働率 | 月の営業日数 | 月商 |
|---|---|---|---|---|
| 8,000円 | 5枠 | 60% | 22日 | 528,000円 |
| 8,000円 | 5枠 | 75% | 22日 | 660,000円 |
| 10,000円 | 6枠 | 60% | 24日 | 864,000円 |
| 10,000円 | 6枠 | 75% | 24日 | 1,080,000円 |
上の表は計算方法を示すための例であり、この金額が達成できることを示すものではありません。ご自身の単価と営業日数に置き換えて計算してください。
ステップ2:トレーナー1人の上限を確認する
飲食店であれば席数を増やせば売上の天井が上がりますが、パーソナルジムはトレーナー本人が施術する以上、1日に取れる枠数が売上の物理的な上限になります。1日8枠を26日こなしても、単価10,000円なら月208万円が理論上の限界で、しかも稼働率100%は現実的ではありません。
この構造を理解しておくと、計画書に無理な数字を書かずに済みます。売上を伸ばす方法が「枠を増やす」しかないのか、「単価を上げる」「回数券や月額制で単価と継続率を上げる」なのかを先に決めておくと、面談でも説明が一貫します。
ステップ3:計画書の「事業の見通し」に根拠ごと書く
日本政策金融公庫の創業計画書には「事業の見通し」を書く欄があります。ここに月商の数字だけを書くのではなく、分解した4つの数字と、その根拠を並べて書きます。
- セッション単価:近隣の同業の料金を調べたうえで自分の価格を決めた経緯
- 枠数:営業時間と1セッションの所要時間から機械的に出る数字
- 稼働率:開業直後は低く見込み、何か月目に何%へ上げる計画か
- 営業日数:定休日の設定とその理由
前職での指導実績や、独立後に来ていただける見込みのお客様がいる場合は、その人数も併記します。実績のない事業だからこそ、数字そのものより「どう考えて置いた数字か」が評価されます。
機材は1台いくらかで税金が変わる|10万・20万・40万の3本のライン
ここからが、費用の記事ではまず触れられていない部分です。同じ金額の機材でも、1台あたりの値段によって経費になるタイミングがまったく違います。
ラインごとの扱い
機材のような長く使う資産は、原則として買った年に全額を経費にできず、耐用年数にわたって少しずつ経費にしていきます(減価償却)。ただし金額が小さいものには例外が用意されています。
| 1単位あたりの取得価額 | 扱い | 経費になるタイミング |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 全額を必要経費に算入 | 使い始めた年に全額 |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産 | 3年間で毎年3分の1ずつ |
| 10万円以上40万円未満 | 少額減価償却資産の特例(青色申告) | 使い始めた年に全額(年間300万円まで) |
| 40万円以上 | 通常の減価償却 | 耐用年数にわたって毎年 |
10万円以上20万円未満の機材は、一括償却資産と少額減価償却資産の特例のどちらも選べます。一括償却資産には償却資産税がかからないという違いがあるため、有利な方は状況によって変わります。
いま出てきた償却資産税は、機材や設備を持っていると毎年かかる市町村の税金です。何が対象になり、いくらから申告が必要になるのかはこちらでまとめています。

【2026年4月改正】40万円未満に広がった特例
上の表の3行目、少額減価償却資産の特例は2026年(令和8年)4月1日以後に取得したものから、対象が30万円未満から40万円未満に広がりました。年間の上限は300万円までで、青色申告をしていることが条件です。
パワーラックやスミスマシンといった主力の機材は、ちょうど30万円から40万円の価格帯に入ることが多く、この改正の影響をまともに受ける買い物です。2026年3月までに買ったものは30万円未満、4月以後に買ったものは40万円未満が基準になりますので、開業準備が年度をまたぐ方は取得日を必ず記録しておいてください。
判定は「1台」ではなく「1単位」
見落とされやすいのが、金額を数える単位です。国税庁は、取得価額は通常1単位として取引されるその単位ごとに判定するとしています。例として、応接セットはテーブルと椅子が1組で取引されるものだから1組で判定し、カーテンは一つの部屋で数枚が組み合わされて機能するものだから部屋ごとに合計して判定する、と示されています。
パワーラック本体・シャフト・プレートを一式で購入し、組み合わせて初めて使えるものであれば、ばらばらの請求書になっていても一式で判定するのが自然です。「1点ずつ10万円未満に収まっているから全部その年の経費になる」と考えていると、後で修正が必要になることがあります。
創業融資で押さえる3つのポイント
開業資金の調達先として現実的なのは、日本政策金融公庫の創業融資です。新規開業・スタートアップ支援資金は、事業開始後おおむね7年以内の方を対象に、設備資金と運転資金を融資する制度です。
なお、同じ計画でも申し込む時期によって審査での見え方は変わります。開業前と開業後のどちらで動くべきかは、こちらで詳しく解説しています。

ポイント1:自己資金は「要件」ではないが「見られる」
かつての新創業融資制度には自己資金の金額要件がありましたが、2024年3月の制度改定で廃止・統合され、現在の新規開業・スタートアップ支援資金には自己資金の金額要件は設けられていません。公庫の商品ページにも自己資金の金額基準は記載されていません。
とはいえ、自己資金が計画の実現性を裏づける材料として見られることに変わりはありません。実務上は融資希望額の30%程度を用意できると説明がしやすくなります。ただしこれは公庫が公表した基準ではなく、私たちが支援の現場で目安としている水準です。金額そのものより、その資金をどうやって貯めたかが通帳で説明できることが重視されます。
ポイント2:設備資金は見積書で裏づける
機材や内装にかかる設備資金は、見積書を添付できるかどうかで説得力が大きく変わります。「機材一式で100万円」と書くより、機材ごとの見積書を揃えたほうが、資金の使いみちが明確になります。
見積書は融資の申込直前に慌てて集めるものではありません。物件と機材の候補が固まった段階で取り始めておくと、そのまま計画書の設備資金の欄に落とし込めます。
ポイント3:計画を実行できる人と見てもらう
公庫の新規開業・スタートアップ支援資金には、「適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる方」に限るという注記があります。計画書の出来と、それを実行できる人であるかの両方が見られるということです。
パーソナルジムの場合、トレーナーとしての勤務年数、担当した会員数、保有資格、独立後に来ていただける見込みのお客様の有無が、そのまま遂行能力の裏づけになります。これまでの仕事の中身が、そのまま審査材料になります。職務経歴は省略せず、具体的に書いてください。
計画書を提出したあとには面談があります。何を聞かれるのか、どう答えると伝わるのかを事前に知っておくと、落ち着いて臨めます。

まとめ
- マンション一室型のパーソナルジムの初期費用は110〜290万円程度が目安。ただしこれは公的統計ではなく各社の公開値を集めた数字なので、相場ではなく抜け漏れチェックに使う
- 床補強・防音、物件の用途制限、運転資金3〜6か月分は見落とされやすい。特に運転資金の不足が資金計画の失敗要因になりやすい
- 売上は「セッション単価×1日の枠数×稼働率×営業日数」に分解して計画書に書く。金額ではなく作り方が見られる
- トレーナー1人が1日に取れる枠数が売上の物理的な上限になるため、無理な数字を置かない
- 機材は1単位あたりの金額で扱いが変わる。10万円未満は全額、10万円以上20万円未満は一括償却資産、40万円未満は青色申告なら特例で全額(年間300万円まで)
- 少額減価償却資産の特例は2026年4月1日以後の取得から40万円未満に拡大。3月までの取得は30万円未満なので、取得日を必ず記録する
※本記事は2026年9月時点の情報です。個別の税務判断はご相談ください。
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