パート掛け持ちの確定申告は必要?申告不要でも還付される仕組みを税理士が解説

はじめに
こんにちは、税理士法人淀川パートナーズの堀です。
パートを2か所以上で掛け持ちしていると、年末が近づくにつれて「私は確定申告をしないといけないの?」と気になってくる方が多いと思います。
先に結論をお伝えします。掛け持ちをしていても、確定申告が「必要」になる方はそれほど多くありません。ただし、申告の義務がない方でも、確定申告をすると税金が戻ってくる(還付される)ケースが少なくありません。
この記事では、確定申告が必要かどうかの判定方法、「20万円ルール」の正しい使い方、そして申告義務がなくても申告した方が得になる理由まで、順を追って解説します。2026年(令和8年)時点の最新の制度に対応しています。
パートの掛け持ちで確定申告は必要?3つの分岐で判定
まず、ご自身が「確定申告をしなければならない人」に当てはまるかを確認しましょう。掛け持ちの場合、判定の順序は次のとおりです。
分岐1:どこか1か所で年末調整を受けていますか?
パートを掛け持ちしている場合でも、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出できるのは1か所だけです。この申告書を出した勤務先が「主たる勤務先」となり、そこで年末調整が行われます。
通常は、最も収入が多い勤務先を主たる勤務先にします。それ以外の勤務先は「従たる勤務先」となり、年末調整は行われません。
分岐2:年末調整されなかった給与の合計が20万円を超えますか?
ここが判定の中心です。国税庁は、確定申告をしなければならない人の要件を次のように定めています。
「給与を2か所以上から受けていて、かつ、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整されなかった給与の収入金額と、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)との合計額が20万円を超える人」(国税庁タックスアンサーNo.1900)
つまり「従たる勤務先からの給与の合計が20万円を超えるかどうか」で判定します。ここで見るのは全部の勤務先を合計した年収ではなく、年末調整を受けていない分だけである点にご注意ください。
従たる勤務先が2か所以上ある場合は、それらを合計して20万円を超えるかで判定します。
分岐3:150万円の例外にあてはまりませんか?
ここが見落とされやすいところです。20万円を超えていても、次の条件を両方満たす場合は申告不要とされています(同No.1900の注書き)。
- 給与の収入金額の合計額から、所得控除の合計額(雑損控除・医療費控除・寄附金控除・基礎控除を除く)を差し引いた金額が150万円以下
- 給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下
所得控除には社会保険料控除なども含まれるため、給与収入の合計が150万円台くらいまでの方は、この例外に該当して申告不要になることが多くなります。パートを掛け持ちしている方には、当てはまる方が少なくありません。
なお、給与の年間収入金額の合計が2,000万円を超える方は、金額にかかわらず確定申告が必要です。
3つの分岐で判定した例
| ケース | 主たる勤務先 (年末調整済) | 従たる勤務先 | 給与合計 | 確定申告 |
|---|---|---|---|---|
| A | 110万円 | 15万円 | 125万円 | 義務なし 従たる給与が20万円以下 |
| B | 110万円 | 18万円+12万円 | 140万円 | 義務なし 20万円は超えるが150万円の例外に該当 |
| C | 250万円 | 40万円 | 290万円 | 必要 20万円超で例外にも該当しない |
ケースBのように、従たる給与が20万円を超えていても申告義務が生じないことがあります。「20万円を超えたから申告しなければ」と早合点しないようご注意ください。
「20万円ルール」の正しい意味と、よくある誤解
いわゆる「20万円ルール」は広く知られていますが、内容を取り違えている方が多い制度でもあります。
誤解1:「年収が一定額を超えたら確定申告が必要」ではありません
「合計年収が◯◯万円を超えたら確定申告が必要」という説明を見かけますが、これは正確ではありません。所得税がかかることと、確定申告の義務があることは別の話だからです。
主たる勤務先で年末調整を受けていれば、そこで納めるべき所得税は精算されています。確定申告が必要になるのは「年末調整で精算しきれなかった分が20万円を超えるとき」であって、年収の総額で決まるわけではありません。
誤解2:「20万円以下なら申告してはいけない」わけではありません
20万円ルールは「申告しなくてよい」という制度であって、「申告してはいけない」という制度ではありません。申告するかどうかは選べます。
そして次のセクションで説明するとおり、掛け持ちの方は申告した方が得になることが多いのです。
申告義務がなくても「した方が得」なことが多い理由
先ほど引用した国税庁のページには、実は重要な但し書きが付いています。確定申告が必要な人を挙げる前に、「(確定申告をすれば税金が還付される人は除きます。)」と書かれているのです。
つまり、還付を受けられる方は「しなければならない」対象ではなく、「したければできる」立場だということです。では、なぜ掛け持ちだと還付になりやすいのでしょうか。
従たる勤務先では税金が多めに引かれる仕組み
給与から源泉徴収される所得税は、「源泉徴収税額表」という表で決まります。この表には「甲欄」と「乙欄」という2つの区分があります。
| 適用される勤務先 | 税額が0円になる金額帯 | |
|---|---|---|
| 甲欄 | 主たる勤務先(申告書を提出した1か所) | あり |
| 乙欄 | 従たる勤務先 | なし |
主たる勤務先に適用される甲欄には、給与が一定額未満であれば源泉徴収税額が0円になる金額帯があります。ところが従たる勤務先に適用される乙欄には、この0円の金額帯がありません。少額の給与であっても所得税が差し引かれます。
その結果、年間を通してみると本来納めるべき税額より多く源泉徴収されているという状態が生まれます。掛け持ちで働く方に還付が発生しやすいのは、この仕組みがあるためです。
そもそも年収160万円までは所得税がかかりません
令和7年の改正で、給与所得控除の最低額が65万円に、基礎控除が最大95万円に引き上げられました。この2つを合計すると160万円になります。
- 年収160万円 − 給与所得控除65万円 = 所得金額95万円
- 所得金額95万円 − 基礎控除95万円 = 課税所得0円
掛け持ちの場合はすべての勤務先の収入を合計して判定しますが、合計しても160万円以下であれば、そもそも所得税は発生しません。それにもかかわらず従たる勤務先で源泉徴収されていたのであれば、確定申告をすればその全額が戻ってきます。
還付を受けるための申告は、その年の翌年から5年以内であれば行えます。過去の分を出し忘れていた方も、さかのぼって手続きできます。
収入と所得の違いや、年収別の所得金額については、こちらで詳しく解説しています。

住民税に20万円ルールはありません
見落とされがちなのが住民税です。20万円ルールは所得税だけの制度で、住民税にはこの特例がありません。金額の大小にかかわらず、すべての所得が住民税の計算対象になります。
ただし、パートの掛け持ちで給与以外の収入がない場合は、実務上あらためて申告する必要がないことがほとんどです。勤務先は従業員の給与を市区町村へ「給与支払報告書」として提出する義務があり、その情報をもとに市区町村が住民税を計算してくれるためです。
住民税の申告が必要になるのは、次のようなケースです。
- 勤務先のいずれかが給与支払報告書を提出していない場合
- 給与以外の収入(フリマアプリでの販売、業務委託など)がある場合
なお、住民税の取扱いは市区町村によって異なる部分があります。判断に迷われる場合は、お住まいの市区町村の窓口か私たちにご相談ください。
掛け持ちで気をつけたい2つの壁
確定申告とは別に、掛け持ちで働く方が意識しておきたい基準が2つあります。どちらも「1か所あたり」ではなく「全部を合計して」判定される点が重要です。
| 壁 | 内容 | 判定 |
|---|---|---|
| 160万円 | これを超えると所得税がかかり始める | 全勤務先の収入を合計 |
| 130万円 | これを超えると配偶者等の社会保険の扶養から外れる | 全勤務先の収入を合計 |
とくに注意したいのが130万円の壁です。所得税の負担が数千円〜数万円単位で増えるのに対し、社会保険の扶養から外れると自分で健康保険料・年金保険料を負担することになり、負担の増え方が大きくなります。
「1か所あたりは少額だから大丈夫」と考えて調整していると、合計で130万円を超えてしまうことがあります。掛け持ちの方は、年の途中で全勤務先の合計額を確認しておくことをおすすめします。
年収の壁の全体像については、こちらをご覧ください。

年収ごとに税金と手取りがいくらになるかは、こちらの早見表でご確認いただけます。

確定申告の手続きと必要書類
確定申告をする場合の流れは次のとおりです。
- すべての勤務先の源泉徴収票を集める——主たる勤務先の分だけでは申告できません。従たる勤務先の分も必要です
- 申告書を作成する——国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使うと、源泉徴収票の内容を入力するだけで自動計算されます
- 提出する——e-Taxのほか、郵送や税務署への持参でも提出できます
還付を受ける場合は、本人名義の口座番号も必要です。申告期限(原則3月15日)を過ぎていても、還付申告であれば5年以内は受け付けてもらえます。
なお、源泉徴収票を紛失した場合は勤務先に再発行を依頼してください。退職した勤務先の分も同様です。
まとめ
- 掛け持ちで確定申告が必要になるのは、年末調整されなかった給与などの合計が20万円を超える場合。全勤務先を合計した年収で決まるわけではありません
- ただし20万円を超えていても「150万円の例外」に該当すれば申告不要。給与収入の合計が150万円台くらいまでの方は該当することが多くなります
- 「合計年収が一定額を超えたら確定申告が必要」という説明は正確ではありません
- 20万円ルールは「申告しなくてよい」制度であり、申告することは選べます
- 従たる勤務先には「乙欄」が適用され、税額が0円になる金額帯がないため多めに源泉徴収されがちです
- 年収の合計が160万円以下なら所得税はかからないため、源泉徴収されていた分は申告すれば戻ります
- 還付申告は5年以内ならさかのぼって手続きできます
- 住民税に20万円ルールはありませんが、給与のみなら勤務先の給与支払報告書で足りることがほとんどです
- 130万円の壁(社会保険)は全勤務先の合計で判定されます。負担の増え方が大きいので注意してください
※本記事は2026年8月時点の情報です。個別の税務判断はご相談ください。
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